(昭和21年頃作成か)
「現在われわれ日本人に与えられている大きな課題は『平和の進路』を拓り開くことであるが、これは同時に世界的なそして頗る大きな永遠の課題でもある。
ところで『平和国家』 『平和世界』とはどんな国家、どんな世界を指すのであろう。
われわれはそれを考える前に、こんな統一のない不具・失調・不健康な世界によくも今日まで耐え忍んで生きてこられたものだと思う。だがこの不具な不健康な世界は神によって与えられたものでもなければ、無論自然そのままの相でもない。実はわれわれ自身が斯くも歪めて来たものである。
果しなくも惑い迷う浅はかなわれわれが、知らず識らず自らの心と肉体の調和を破綻させて来た。統一を破壊して来た。それが遂に今日のような不具・失調‘不健康な世界を作りあげて来たのである。
論理の唐突に面喰うものがおるかも知れないが、漂える世界を形造り、又その表情を絶えず変貌させてゆくものは、常にその現在に棲む人の言葉であり意志であり行動である。つまり世界を構成するものはわれわれ自身なのである。静かに考えてみれば、そのお互いが皆病人であったことに気付くのだ。
『病人によって構成されている患いの世界！！』
それに気がつかないと、お互いに住み難きを卿（かこ）ち、その不安から脱れようと藻掻（もが）き狼狽えるのは、あまりにも愚かしいことではないだろうか。先づ自己の失調・不全・不具・不髄を反省し人間本来の素直な正しい清い明るい健康な相へお互いを救い出さない限り、決して世界の平和や幸福など思いもよらぬことである。
もともと心と肉体とは顕幽の一体である。情意と行動、心理作用と生理作用とは相即不離の関係にあるべきものである。思いのままに行い、念ずるがままに行じて謬りないのが人間本来の真姿であり実相でなければならぬ。『ここら』 『からだ』を伴わず、『からだ』 『こころ』に随わず日々悶え苦しみ、心にもない不純な行状に明げ暮れているのではないか。つまり心身の不一致不統一であり、違和乖離であり、不髄現象でなくて何であろう。『心の我執迷妄が先か』 『血液の混濁粘稠が後か』何れにしても心身一如の妙境に破綻を来たし、筋・節・腰の正調が乱れて不髄現象を起していることは事実である。不髄なお互いは悉く病人なのである。呼吸器・循環器・消化器……生殖器疾患の不治におののき、動脈硬化・半身不髄に恐怖しながらなぜに世の人はそれらの素因であるこの大きな事実を閑却しているのであろう。
われわれは多年『真向法』を提唱して来た。かくて治り治らぬなどと愚かな詮索に血眼になるよりも、囚われた古い通念から自己を解放し心身一如の実相に還元する道を求めようではないかと呼び続けて来た所以はここにある。
『精神の純化から肉体を健康へ！！』
『肉体の調整から心を正常へ！！』
この極めて簡単な真理に基き、筋・節・腰の乱れを調整することにより体内に瀦（ちょ）溜する毒素は悉く排除され、神経から精神への正しい生命線が心持ちよく貫通すれば、期せずして如何なる患いにも悩みにも冒されぬ健全な体を取り戻すことができるのである。
希くばこの易行道の普及により、先づ隣人から世の人々へ、かくて世界全人類一人残らずがすこしでも早く心身一如の実相に徹するよう祈りつづけたい。世の人々の間に心身一如の光明が輝き始むれば、ここに生き生きと明るい素直な世界が開けてくるであろう。矛盾も摩擦も斗争も自然に克服され、協調と幸福に充ちた平和の『あけぼの』が静かに穏かに訪れてくるであろ。
茲に汎く各界有識の士の賛助協力を仰ぎ真向法普及会を設立し、この易しい妙法を普く天下に及ぼして健やかな明るい永遠の世界を建設しようと念願する所以である」
(長井 洞著 「真向一途ー亡父長井津の生涯」より)